朝活読書サロンCollective Intelligence

月二回渋谷で開催している朝活読書サロンCollective Intelligenceに集う本をこよなく愛するメンバーのブログ

【事実は一つでも、真実は人の数だけある】『ハル回顧録』

こんにちは。readingsalonのブログ、共同執筆者の北澤です。今月は久し振りにまともな更新です。


本書を紹介するタイミングとしてちょうど良いかもしれません。


コーデル・ハル著、 宮地健次郎訳『ハル回顧録』



コーデル・ハル、米ルーズヴェルト政権下で国務長官を務め上げた人物。日本に対米開戦を決意させたとされる「ハル・ノート」で多くの日本人にその名前を知られる人物の回顧録です。いつも選書の参考している読書仲間が「双方向の視点を獲得するためにも」と評していた一冊です。


多くの日本人が彼に持つイメージは「無理難題を押し付けて日本に開戦を迫らせた人物」ではないでしょうか。本人からすれば「ハル・ノート」に込めた意図と日本の捉え方への見方は次のようなものでした。

最後の段階になっても、日本の軍部が少しは常識をとりもどすこともあるかも知れない、というはかない希望をつないで交渉を継続しようとした誠実な努力であった。

日本の宣伝は、この十一月二十六日のわれわれの覚書をゆがめて最終通告だといいくるめようとした。


我々が持つイメージとは真逆ではないでしょうか。ハルの言葉を真に受けることはしませんが、日本の軍部が異常であったこと、国民を騙し続けていたということは事実。そう考えると、ハル側に立った視点もまた重要ということになります。


ハルは「国際連合の父」としてノーベル平和賞を受賞しており、戦後体制の樹立者として著名であることは本書を読んで知りました。どうしても「ハル・ノート」を突き付けた血も涙もない冷血漢というイメージが先行しています。刷り込まれているのでしょう。

しかし、ハル・ノートによって、日本を挑発したことを考えると、ノーベル平和賞に値するような、世界平和の構築に貢献したかどうかは疑問である。


解説を寄稿している須藤眞志氏のハル評です。偏った意見だと思いました。氏は「ハル・ノート」を参謀本部の強硬派が一致団結して日米戦争にのぞめる天佑だと歓迎した、と解説しているにも拘らずです。私自身は、日本にそのような素地があったことこそ問題だと考えます。


本書を「双方向の視点を獲得するためにも」と評した読書仲間の言葉通り、史実をもう一方の側から見てみるための極めて有用な一冊だと思います。歴史上の事実は一つであっても、真実は人の数だけあるものですから。