朝活読書サロンCollective Intelligence

月二回渋谷で開催している朝活読書サロンCollective Intelligenceに集う本をこよなく愛するメンバーのブログ

【読むなら「いまでしょ」の一冊】『散るぞ悲しき - 硫黄島総指揮官・栗林忠道』

こんにちは。readingsalonのブログ、共同執筆者の北澤です。今年から毎月第一土曜日に、その月に読んだものの中から印象に残った本を紹介しています。出張続きで投稿が遅れてしまいました。お許しを・・・


本日は、間もなく70回目となる8月15日を前にして、是非読んでいただきたい本を紹介します。


梯久美子著『散るぞ悲しき - 硫黄島総指揮官・栗林忠道



太平洋戦争における本土防衛最前線の硫黄島。そこで総指揮官として部下を従え、その地に果てた栗林忠道中将の物語です。五日で落ちるという予想を大幅に覆して、三十六日間に渡り持ちこたえた指揮官。その周到かつ合理的な戦いから「アメリカを最も苦しめた男」として、日本よりもアメリカで有名な人物。家族に当てた手紙を通して、部下、家族、そして国を想い続けた男の姿を描くノンフィクションです。

国の為重きつとめを果たし得で 矢弾尽き果て散るぞ悲しき


タイトルの「散るぞ悲しき」は、栗林忠道中将の辞世の句(三首のうちの一首)から引かれたもの。これは硫黄島での最終決戦を前にして、大本営に発した訣別電報の最後に添えられたものです。この訣別電報と辞世の句が改変されていたという発見からこのノンフィクションは始まります。そのまま新聞に掲載することは差し障りがあると判断した軍上層部が、改変というよりも改ざんを行なったのです。


このように残念な先人の例がある一方で、手本にしたいと思わせる先人もまたいます。栗林忠道中将がまさにそれ。本書を通して描かれているのは、人間・栗林忠道の魅力的な姿です。


上に立つ者としては、驕ることなく部下の立場に寄り添い続けた栗林忠道。象徴的なのは「敢闘の誓」という戦いに臨む心得を述べたものです。ここで「兵は~すべし」という命令調ではなく「我等は~せん」という表現を使っています。そしてその言葉に違わない現場目線の姿勢を貫き続けました。


夫としては妻を気遣い、父親としては子供たちにせっせと手紙を書き続けた栗林忠道。部下にも家族へ便りを出すことを奨励しました。多くの遺骨や遺品がいまだに硫黄島から還ってきていない状況ですが、戦地の兵士たちから家族へ送られた便りは、多くの遺族にとって大切な形代となっています。


先人の行いに残念な思いをすることはありますが、決してそればかりではありません。本土防衛の最前線で戦い、そして散っていった栗林忠道中将と兵士たち。その戦いぶりから日本よりもむしろアメリカで名が通っている。これは日本人として恥ずべきことではないでしょうか。我々日本人が何よりもまず知らなければなりません。


70回目となる8月15日を前にして、読むなら「いまでしょ」の一冊です。是非ご一読を。